認知症

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認知症とは

 年をとると、誰もが人の名前をすぐに思い出せなくなったり、ものをどこにしまったか忘れたりするものです。

 認知症は、そのような加齢による物忘れ(健忘症)とは違い、正常だった脳の働きが徐々に低下する病気です。体験したこと自体を忘れてしまうことによって、以前のように日常生活を上手く送ることができなくなってしまい、最終的には人格崩壊に到こともあります。

 認知症の最大の危険因子は「加齢」です。現在、85歳以上の高齢者では23.7%が認知症と診断されており、今後40%まで上昇すると考えられています。厚生労働省の推計では、2020年の認知症患者数は602〜631万人であり、これは東京都の人口の約半分に当たります。認知症は、患者本人やその家族のQOLを損なうだけでなく、社会にとっても大きな脅威となっています。
 
 現時点では、すべての認知症を治す薬や治療法があるわけではありませんが、治療によって症状を改善したり、進行を遅らせることができる場合もあります。認知症の種類によって、症状の現れ方や治療方法はそれぞれ異なりますが、早い段階で診断を受けて適切な治療を開始することが大切です。

 認知症の主な症状に記憶障害があります。最近、物忘れがひどい、仕事や家事でのミスが多い、同じ話題を繰り返すようになったなど、「普段と違うな」と思ったら、まずお近くの認知症サポート医の受診をお勧めします。

認知症の早期発見

 日本は世界一の超高齢社会であり、多くの認知症予備軍の人たちがいます。認知症は生活習慣の改善や薬の早期投与が効果的です。「おかしいな」と思ったらすぐに認知症サポート医にご相談ください。

・MCIとは

 MCI(mild cognitive impairment)とは軽度認知障害のことです。認知症のように生活に支障をきたすレベルではないものの、もの忘れなどが頻回におこる状態を指します。認知症の早期介入にはMCIの発見が重要になります。

・認知症早期発見のポイント

 認知症になると最近の出来事の記憶から失われていくため、数時間前の出来事を忘れてしまったり、同じことを何度も話したりするようになります。認知症は早く発見して、正しく診断されることで適切な治療やアドバイスが受けられる病気です。以下のような症状が現れたら、認知症の初期である可能性があります。

  • 同じことを何回も言ったり聞いたりする。
  • 財布を盗まれたという。
  • だらしなくなった。
  • いつも降りる駅なのに乗り過ごした。
  • 夜中に急に起きだして騒いだ。
  • 置き忘れやしまい忘れが目立つ。
  • 計算の間違いが多くなった。
  • ものの名前が出てこなくなった。
  • ささいなことで怒りっぽくなった。

認知症サポート医とは

 東京都では認知症に対して助言や支援を行う「認知症サポート医」を養成しています。認知症サポート医とは、認知症サポート医養成研修を終了し、認知症対応に習熟したかかりつけの医師です。

 柳沢ファミリークリニックも認知症サポート医に認定されていますので、困ったこと、わからないことがあればお気軽にご相談ください。

認知症の種類

 認知症とは、単一の疾患の病名ではなく、同様の症状を示す病気の総称(症候群)です。したがって、認知症の種類によって原因や治療法も異なります。

 日本では、「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」が三大認知症と言われています。中でも最も多いのが「アルツハイマー型認知症」です。アルツハイマー型認知症は、80歳以上の日本人の20%以上がかかっていると言われており、世界で一番多い認知症です。

・アルツハイマー型認知症

 「アルツハイマー型認知症」は、変性疾患と呼ばれ、ベータやタウと呼ばれる異常タンパク質が脳の神経細胞にたまることによって神経細胞が死んでしまい、脳が萎縮していく病気です。初期には物忘れなどの記憶障害が現れ、徐々に悪化して見当識障害へと進みます。見当識障害とは、自分の置かれている状況を正しく認識することができない状態であり、日にちや時間、自分のいる場所、周囲にいる人々などがわからなくなります。

・レビー小体型認知症

 「レビー小体型認知症」もアルツハイマー型認知症と同じく、脳の変性疾患一つです。大脳皮質の神経細胞の中に「レビー小体」と呼ばれる異常が蓄積して起こります。レビー小体型認知症では、初期に現実にはないものが見える「幻視」や、眠っている間に奇声をあげるなどの異常行動(レム睡眠行動障害)が起こることがあります。
 また、レビー小体型認知症では手足が震える、小刻みに歩くなどのパーキンソン病の症状が認められることがあります。パーキンソン病は歩行が困難になるため、転倒への注意が必要になります。

 アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症は、現在、根本的な治療法はありませんが、薬によって症状の進行を遅らせることは可能です。

・脳血管性認知症

 「脳血管性認知症」は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など、脳の血管が詰まったり破れたりして急激に起こる認知症です。脳血管性認知症では、血管障害が起こった脳の部位によって、記憶障害に加えて、意欲低下、無関心、手足の麻痺など様々な心身症状が発症します。
 脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血の原因となる高血圧、糖尿病、脂質異常症などをしっかり治療することで予防や進行の抑制が可能です。

・前頭側頭型認知症

 上記の三大認知症の他にも「前頭側頭型認知症(ピック病)」があります。前頭側頭型認知症では、理性をつかさどる前頭葉と言語をつかさどる側頭葉が萎縮するため、感情や行動のコントロールができなくなり、問題行動を起こすようになります。記憶障害よりも行動異常が先に起こるため、性格が変わったのだろうと思われて見過ごされているケースがあります。

・そのほか

 また、頭部外傷によって、頭蓋骨と脳の間に血液がたまる「慢性硬膜下血腫」や、脳室が拡大する「正常圧水頭症」、甲状腺の働きが低下にする「甲状腺機能低下症」などでも認知症が認められることがあります。いずれも脳外科手術や投薬によって治療が可能です。

 注意が必要なタイプに「薬剤起因性老年症候群」があります。薬剤起因性老年症候群とは、医師が処方した薬の副作用によって発症する認知症です。高齢者は代謝機能が低下しているため、薬が体内に蓄積し、作用や副作用が強く出てしまうことが原因として考えられています。

 薬剤起因性老年症候群では、特に睡眠薬、抗不安薬などのベンゾジアゼピン系薬剤と認知機能低下や過鎮静、問題行動などの症状の間に因果関係があるとされています。薬剤起因性老年症候群の割合は、全ての認知症の1〜2割に相当するのではないか、とする見解もあり、老年医学会では「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を作成し、ベンゾジアゼピン系薬剤に対する注意を喚起しています。

認知症の症状

  認知症の症状には、多くの認知症型に共通して認められる記憶障害を中心とした「中核症状」と、中核症状に伴って二次的に発症する「行動・心理症状」があります。認知症とは、記憶障害の他に、「失語、失行、失認、実行機能障害」のどれかが1つ以上加わり、その結果、社会生活あるいは職業上明らかに支障をきたし、かつての能力レベルの明らかな低下が見られる状態を指します。

・中核症状

 認知症の主症状である「記憶障害、実行機能障害、見当識障害、失認、失行、失語」などは、多くの認知症患者に共通して認められるため、「中核症状」と呼ばれています。 

 認知症の記憶障害では記銘力が衰えるため、最近の出来事から忘れていきます。症状が進行すると、学習した知識(意味記憶)、自分が体験した思い出(エピソード記憶)の順で失われていき、最終的には、自転車に乗るなど、身体で覚えている記憶(手続き記憶)も消えてしまいます。

 実行機能障害になると、物事を順序立てて行うことができなくなります。今までできていた仕事や家事に支障をきたし、旅行の計画なども立てられなくなってしまいます。

 見当識障害とは、自分の置かれている状況がわからなくなることを指します。知っている場所なのにどこだかわからない、知っている人なのに誰だかわからない、と言うように認識力に障害が出ます。

 失認は、視力や聴力に問題がないのに認知できない状態、失行は目的通りの行動ができなくなる状態、失語は言葉の理解や会話が困難になる状態を指します。

・行動・心理症状(BPSD)

 行動・心理症状は、中核症状に伴って現れる症状で、認知症の型や患者によって症状が異なります。このような症状には、妄想、幻覚、不眠、食に対する異常、不潔行為などがあります。また、認知症のストレスから、うつ、作話、攻撃的行動、徘徊に至ることもあります。

 認知症の初期においては、患者本人も自分の異常を認識できるため、大きな不安にさらされます。また、症状によって家族など周囲との軋轢が高まると、さらなるストレスにさらされることになります。

 認知症が進行すると認知機能の障害によって、周囲の状況が認識できなくなります。その結果、家で家族と一緒にいても、知らない場所で知らない人たちに囲まれていると思い込むようになります。健常者でも突然外国に連れていかれ、知らない人たちに囲まれたらストレスなように、認知症の患者も大きなストレスを抱え込むことになります。

 認知症の行動・心理症状の多くはこのような心理的ストレスが原因であると考えられています。周囲の人が認知症を理解し、サポートすることによって、行動・心理症状は緩和されることが知られています。

 認知症患者の行動には、その人なりの理由があることが少なくありません。認知症初期の場合、自分自身の変化に対して不安を抱き、引きこもりがちになります。また、自分の症状を隠し、失敗を正当化するために嘘をつく「作話」が見られるようにもなります。特に自分がものを紛失したことを認めずに「盗られた」と言い始めるのは認知症の典型的な症状です。このような「物盗られ妄想」から、家族ですら信じることができなくなり、暴言を吐いたり、暴力にエスカレートすることもあります。

 さらに、見当識が衰えて自分のいる場所や家族の顔が認識できなくなると、自分の家を探す目的で徘徊するようになってしまいます。

 認知症患者の看護には、このような患者の心情の理解と適切なサポートが不可欠になります。認知症で一番不安を抱えているのは患者自身です。家族や看護者は、患者に寄り添い、患者のプライドを傷つけないように患者ができないことをそっとサポートしてあげましょう。

認知症の診断

 認知症の診断は問診と脳の画像解析によって行います。通常は30分程度の口頭のテストを受けていただきます。その後、医師が必要と判断すれば、CT、MRI、PETなどによって脳の画像撮影、脳血流SPECT検査などを行って認知症の型を判定することになります。

認知症の治療

・アルツハイマー型認知症

 もっとも患者数の多いアルツハイマー型認知症ですが、残念ながら根本から治療する方法は現在ありません。しかしながら、進行を抑制する薬が認可されています。

  • ドネペジル塩酸塩(製品名:アリセプト)
  • ガランタミン臭化水素塩酸(製品名:レミニールなど)
  • リバスチグミン(製品名:リバスタッチ、イクセロンなど)
  • メマンチン塩酸塩(製品名:メマリーなど)

・脳血管性認知症

 脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血によって脳がダメージを受けた結果起こります。神経細胞は基本的に再生しないため、脳の損傷を完全に回復することはできません。むしろ脳梗塞や脳出血の原因となる高血圧、糖尿病、高脂血症を予防することが重要です。

・レビー小体型認知症

 アルツハイマー型認知症と同じく、根本から治療したり進行を止めたりする方法は今のところありません。認知機能の低下に対してはアルツハイマー病の治療薬、パーキンソン様症状についてはパーキンソン病の治療薬を使うことがあります。

・前頭側頭型認知症

 残念ながら他の認知症と同じく決定的な治療法はありません。生活環境を整えたり、短期入院などによって問題行動に対処していくことになります。

薬剤起因性老年症候群

 医師の指導のもと、飲んでいる薬を減らしていきます。向精神薬や抗不安薬の中には突然やめてしまうと危険なものもあります。自分で判断するのではなく、必ず医師にご相談ください。
 また、睡眠薬などを飲んでいる方は、飲まなくても眠れるよう生活のリズムを整えましょう。下記の「光療法」を使えば薬に頼らずに睡眠のリズムを改善できます。

・薬以外の治療法

・生活環境整備
 認知症になると出来ることが徐々に減っていきます。本人が出来なくなったことを自尊心を傷つけずにサポートしてあげられる体制を整えることが大切です。また、転倒や徘徊などのリスクに対処する必要もあります。

・認知リハビリテーション
 認知力を維持するためには、書き取りや計算ドリル、脳トレなどが有効です。毎日少しずつ行うことによって認知症の予防にもなります。そのほかに昔の出来事を思い出したり、囲碁・将棋・麻雀などの知的ゲームを楽しむことも認知力の維持に有効です。

・音楽療法
 好きな音楽を聴く「受動的音楽療法」と、歌などを歌う「能動的音楽療法」があります。音楽のリラックス効果によって行動・心理症状が抑制されることが報告されています。音楽以外にも絵画、陶芸など創造性を刺激する趣味は認知症の進行を遅らせる効果があると言われています。

・活動療法
 ウォーキング、体操、ダンスなど、体を動かすことによって行動・心理症状の軽減を目指します。身体を動かすことによって運動機能や心肺機能の維持も期待できます。

・ペット療法
 犬や猫などペットと過ごすことは行動・心理症状の軽減につながります。

・アロマ療法
 特定の匂いは、直接脳の海馬に働きかけて記憶を呼び戻すことがあります。アロマ療法では、アロマテラピーによって脳を刺激すると同時に、リラックス効果によって行動・心理症状を抑制します。

・光療法
 太陽と同じ波長の光を浴びることによって体内時計を正常化し、睡眠障害を改善します。認知症に伴う「うつ」などの症状の改善にも役立つという報告もあります。

認知症の方への対応の仕方

・普段の心構え

 認知症と診断されても、本人にできることはたくさん残っています。家庭内で本人の役割や出番を作って、前向きに日常生活を送ることが大切です。「認知症は病気である」ということを理解して、本人の気持ちの寄り添った対応を心がけましょう。認知症の初期は患者本人も不安で辛い思いをしています。家族や周りの人がイライラしたり煙たがると、本人が消極的になりさらに症状の進行を早めることになります。

・否定しない
 認知症では妄想や幻覚、暴言・暴力などに的確に対処することが必要となります。認知症で一番辛いのは患者本人であることを認識し、患者の言い分が荒唐無稽であっても「無視する」、「馬鹿にする」などの否定的な態度をとってはいけません。また、失敗を叱る、怒るなどの行為も行動・心理症状の悪化につながります。

・急かさない
 急かすとできることもできなくなってしまします。自分でやろうとしているときはなるべく見守りましょう。間違ったことでもすぐに訂正や説得せず、別のことを提案して場面を切り替えましょう。

・行動の理由を考える
 認知症患者の行動は、不可解に見えても往々にして患者自身の理由があります。否定的に接するのではなく、行動の理由を読み取って共感する姿勢を見せて安心させることで行動・心理学的症状を和らげることができます。

・ストレスをため込まない
 「どうしたら円滑・円満に事が運ぶか」ということを優先して対応することで、より良い関係を保つことができますが、それ以上に大切なことは看病する側がストレスを溜め込まないことです。すべてを自分で抱え込まずに家族で分担し、介護などの補助をうまく活用しましょう。

・コミュニケーション方法

  • 相手の顔を見て話す。
  • 名前で呼びかける。
  • ゆっくりと具体的な言葉で話す。「あれ」、「それ」などの指示語は避ける。
  • 理解しているか確認しながら話す。
  • 理解していない場合には、ゆっくり繰り返す、ジェスチャーを交えるなどの工夫をする。

・日常生活の工夫

  • 1日の予定をボードやメモに書いておく。
  • ものの保管場所を忘れないように、引き出しなどにラベルを貼る。
  • 大切な約束や大事な連絡先は手帳にメモする。
  • その日の出来事を日記に書いてもらう。

・困った行動への対処法

被害妄想

 認知症では「物を盗られた」「お金がない」などの被害妄想がよくあります。このような場合には、頭から否定せずにまずは話を聞きましょう。他の提案をして、気持ちをほかに向かわせる工夫も効果的です。

幻覚

不眠

過食・異食

徘徊

 徘徊は自分の居場所がわからなくなり不安になったり、目的を忘れてしまうなどの理由から起こります。徘徊すると事故の原因になります。日頃から名前や連絡先が分かるものを身につけてもらったり、最寄りの交番などに相談して、保護されたときに連絡してもらえるようにしておきましょう。

 最近では居場所のわかるGPSタグやGPSを埋め込んだ靴も販売されています。このようなグッズの活用も有効かもしれません。

失禁

 失敗をせめないでください。寝る前に定期的にトイレに誘ったり、貼り紙をしたり夜は照明をつけてトイレの場所をわかりやすくするなどの工夫をしましょう。

不潔行為

介護に疲れたら

 介護する家族に負担がかかり過ぎないよう、様々なサポート方法があります。区などの相談窓口を利用しましょう。わからなければクリニックへどうぞ。

 同じような経験をしている方と話をすることはストレスの軽減にもなりますし、有益なアドバイスや情報を得る機会にもなります。積極的にそのようなコミュニティーと関わりましょう。