認知症

認知症とは

 認知症は、「もの忘れしやすくなる病気(記憶障害)」だと思われがちですが、記憶障害だけでは認知症とは言えません。認知症とは、記憶障害のほかに失語、失行、失認などの認知障害や実行機能障害などが加わり、社会生活が一人で送れなくなった状態を指します。

最近、物忘れが多くなった気がするんじゃが・・・
認知症じゃろうか・・・?

認知症ではなく、加齢によるもの忘れかもしれません。
気になるようでしたら医師に相談しましょう。

もの忘れと認知症の違い

 歳をとると、誰もが人の名前をすぐに思い出せなくなったり、ものをどこにしまったか忘れたりするものです。

 認知症は、そのような加齢による物忘れ(健忘症)とは違い、正常だった脳の働きが徐々に低下する病気です。正常な方は、最近何を食べたか思い出せなくても「何かを食べた」という行為は覚えています。認知症では「何かを食べた」という行為自体を忘れてしまいます。体験したこと自体を忘れてしまうため、以前のように日常生活を上手く送ることができなくなってしまうのです。

 加齢によるもの忘れはさほど気にする必要はありませんが、もの忘れがひどいようだと認知症の前段階の「軽度認知障害(MCI)」である可能性があります。ほうっておくと認知症になってしまう可能性があるので、一度医師にご相談ください。

認知症では、体験した内容ではなく、体験したこと自体を忘れてしまいます。
そのため、老化によるもの忘れには自覚がありますが、認知症によるもの忘れは自覚(病識)がありません。

 認知症の最大の危険因子は「加齢」です。現在、85歳以上の高齢者では23.7%が認知症と診断されており、今後40%まで上昇すると考えられています。厚生労働省の推計では、2020年の認知症患者数は602〜631万人であり、これは東京都の人口の約半分に当たります。認知症は、患者本人やその家族のQOLを損なうだけでなく、社会にとっても大きな脅威となっています。

 現時点では、すべての認知症を治す薬や治療法があるわけではありませんが、治療によって症状を改善したり、進行を遅らせることができる場合もあります。認知症の種類によって、症状の現れ方や治療方法はそれぞれ異なりますが、早い段階で診断を受けて適切な治療を開始することが大切です。

 認知症の主な症状に記憶障害があります。最近、物忘れがひどい、仕事や家事でのミスが多い、同じ話題を繰り返すようになったなど、「普段と違うな」と思ったら、まずお近くの認知症サポート医の受診をお勧めします。

認知症サポート医とは

  東京都では認知症に対して助言や支援を行う「認知症サポート医」を養成しています。認知症サポート医とは、認知症サポート医養成研修を終了し、認知症対応に習熟したかかりつけの医師です。

困ったことがあれば、お近くの認知症サポート医にご相談ください 。

認知症の症状

 認知症の症状には、多くの認知症型に共通して認められる記憶障害を中心とした「中核症状」と、中核症状に伴って二次的に発症する「行動・心理症状(BPSD)」があります。認知症とは、記憶障害の他に、「失語、失行、失認、実行機能障害」のどれかが1つ以上加わり、その結果、社会生活あるいは職業上明らかに支障をきたし、かつての能力レベルの明らかな低下が見られる状態を指します。

認知症には「中核症状」と「行動・心理症状」があります。

① 中核症状

 認知症の主症状である「記憶障害、実行機能障害、見当識障害、失認、失行、失語」などは、多くの認知症患者に共通して認められるため、「中核症状」と呼ばれています。

 認知症の記憶障害では記銘力が衰えるため、最近の出来事から忘れていきます。症状が進行すると、学習した知識(意味記憶)、自分が体験した思い出(エピソード記憶)の順で失われていき、最終的には、自転車に乗るなど、身体で覚えている記憶(手続き記憶)も消えてしまいます。

中核症状 実行機能障害になると、物事を順序立てて行うことができなくなります。今までできていた仕事や家事に支障をきたし、旅行の計画なども立てられなくなってしまいます。

 見当識障害とは、自分の置かれている状況がわからなくなることを指します。知っている場所なのにどこだかわからない、知っている人なのに誰だかわからない、と言うように認識力に障害が出ます。

 失認は、視力や聴力に問題がないのに認知できない状態、失行は目的通りの行動ができなくなる状態、失語は言葉の理解や会話が困難になる状態を指します。

② 行動・心理症状(BPSD)

 行動・心理症状は、中核症状に伴って現れる症状で、認知症の型や患者によって症状が異なります。このような症状には、妄想、幻覚、不眠、食に対する異常、不潔行為などがあります。また、認知症のストレスから、うつ、作話、攻撃的行動、徘徊に至ることもあります。

 認知症の初期においては、患者本人も自分の異常を認識できるため、大きな不安にさらされます。また、症状によって家族など周囲との軋轢が高まると、さらなるストレスにさらされることになります。

 認知症が進行すると認知機能の障害によって、周囲の状況が認識できなくなります。その結果、家で家族と一緒にいても、知らない場所で知らない人たちに囲まれていると思い込むようになります。健常者でも突然外国に連れていかれ、知らない人たちに囲まれたらストレスなように、認知症の患者も大きなストレスを抱え込むことになります。

 認知症の行動・心理症状の多くはこのような心理的ストレスが原因であると考えられています。周囲の人が認知症を理解し、サポートすることによって、行動・心理症状は緩和されることが知られています。

 認知症患者の行動には、その人なりの理由があることが少なくありません。認知症初期の場合、自分自身の変化に対して不安を抱き、引きこもりがちになります。また、自分の症状を隠し、失敗を正当化するために嘘をつく「作話」が見られるようにもなります。特に自分がものを紛失したことを認めずに「盗られた」と言い始めるのは認知症の典型的な症状です。このような「物盗られ妄想」から、家族ですら信じることができなくなり、暴言を吐いたり、暴力にエスカレートすることもあります。

 さらに、見当識が衰えて自分のいる場所や家族の顔が認識できなくなると、自分の家を探す目的で徘徊するようになってしまいます。

 認知症患者の看護には、このような患者の心情の理解と適切なサポートが不可欠になります。認知症で一番不安を抱えているのは患者自身です。家族や看護者は、患者に寄り添い、患者のプライドを傷つけないように患者ができないことをそっとサポートしてあげましょう。

認知症の種類

 認知症とは、単一の疾患の病名ではなく、同様の症状を示す病気の総称(症候群)です。したがって、認知症の種類によって原因や治療法も異なります。 、

認知症は多くの病気の総称です。

 日本では、「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭葉性症」が四大認知症と言われています。中でも最も多いのが「アルツハイマー型認知症」です。アルツハイマー型認知症は認知症全体の7割近くを占めています。アルツハイマー型認知症は、80歳以上の日本人の20%以上がかかっていると言われており、世界で一番多い認知症です。

 そのほかにも認知症を引き起こす病気として

認知症の診断

 認知症の診断は問診と脳の画像解析によって行います。通常は10~40分程度の口頭のテスト(ミニメンタルステート(MMSE)、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ADAS-jcogなど)を受けていただきます。その後、医師が必要と判断すれば、CT、MRI、PETなどによって脳の画像撮影、脳シンチグラフィー検査(脳血流SPECT検査)などを行って認知症の型を判定することになります。

認知症の治療

① 薬による治療

② 手術による治療

③ 薬や手術以外の治療

食事療法

 認知機能にはビタミンB類が重要です。通常の食事では不足しませんが、胃の切除を受けた高齢者などでは不足することがあります。

認知療法

 知力を維持するためには、書き取りや計算ドリル、脳トレなどが有効です。毎日少しずつ行うことによって認知症の予防にもなります。そのほかに昔の出来事を思い出したり、囲碁・将棋・麻雀などの知的ゲームを楽しむことも認知力の維持に有効です。

音楽療法

 好きな音楽を聴く「受動的音楽療法」と、歌などを歌う「能動的音楽療法」があります。音楽のリラックス効果によって行動・心理症状が抑制されることが報告されています。音楽以外にも絵画、陶芸など創造性を刺激する趣味は認知症の進行を遅らせる効果があると言われています。

 脳を活性化させるばかりでなく、不安や焦燥をやわらげたり、注意や記憶などの認知機能にも有効です。

活動療法

 ウォーキング、体操、ダンスなど、体を動かすことによって行動・心理症状の軽減を目指します。身体を動かすことによって運動機能や心肺機能の維持も期待できます。

ペット療法

 犬や猫などペットと過ごすことは行動・心理症状の軽減につながります。

アロマ療法

 アロマは花やハーブから抽出した精油という成分です。 認知症では嗅覚の機能が低下してます。また、嗅覚を刺激すると大脳辺縁系から前頭前野が活性化することもわかっています。 アロマはBPSDの緩和に使われますが、中核症状にも効果があることが明らかになってきました。

 特定の匂いは、直接脳の海馬に働きかけて記憶を呼び戻すことがあります。アロマ療法では、アロマテラピーによって脳を刺激すると同時に、リラックス効果によって行動・心理症状を抑制します。 劇的な効果は期待できませんが、一定の効果がみられることが実証されています。

光療法

 太陽と同じ波長の光を浴びることによって体内時計を正常化し、睡眠障害を改善します。認知症に伴う「うつ」などの症状の改善にも役立つという報告があります。

タイトルとURLをコピーしました